うさぎさんの斜頸、ローリング、眼振の症状
うさ飼いさんは、ローリングなどの症状に寄り添って、介助なさっている方も多いのですが、わたしは、恥ずかしながら、大久野島に行った時に、初めて経験しました。
ローリングなど、カラダの平行が取れない原因は、大きくわけると二つです。
一つ目は、エンセファリトゾーン症という寄生忠(原虫)が原因
二つ目は、細菌が脳に近い耳の部分、内耳に住むのが原因
エンセファリトゾーン症について
まず、エンセファリトゾーン症は、予防できないものか、考えた時が何度か、あります。
寄生虫学という、今では、あまり取り上げられない勉強をしたことがあります。
どこでもそうですが、多くの学問というのは、人間のためにやっているので、うさぎさん特有の病気だとか、特定の動物特有の病気をわざわざ研究する人は、いません。
いたとしても、人間の病気を撲滅するための、代替研究としてやっていることにしています。
そうしておかないと、研究費が用意できないので、研究が途中で頓挫することになるのです。
寄生虫学、わたしの学生時代には、ずいぶんと情熱を持っていました。
原虫という生き物は、単細胞生物です。
理科の授業で思い出す、アメーバなんかが代表です。
他に、人間で怖い思いをするのが、蚊が媒介するマラリア原虫。
他の寄生虫は、だいたい雌雄がある線虫だとか、ひも状に大きく伸びていく条虫だとか。
うさぎさんでは、うさぎ蟯虫(ぎょうち虫)など、大人のムシは、目に見える大きさになるものです。
だけど、原虫というのは、やっかいで、大人になっても、目では確認できません。
目では確認できないムシは、カラダの細かい部分まで行ったり、隅々まで生息域を、伸ばしてしまいます。
細かい部分に入り込まれると、生き物としては、やっかいです。
本名、エンセファリトゾーン・カニキュリという原虫は、生物の正しい表記で書くと、Encephalitozoon cuniculiです。
名前を書くときは、だれでも、イタリックになります。
エンセファリトゾーン・カニキュリという虫について
うさぎさんにカラダの中に住んでいますが、一人暮らしではなくて、集団で済んでいます。
腎臓に住んでいた群と、他の内臓に住む群、脳に住む群がいます。
原虫がいると、驚く人が多いでしょうが、わたしたちのカラダの中にいるミトコンドリアだって、最初は外来物質でした。
どうか、普通と同じように過ごせることを、ご理解ください。
前に、この病気になったうさぎさんを飼い主さんが、安楽死させようとするエピソードを本で読みました(1)。
この病気に対する理解が必要だと、改めて感じたので、この記事にまとめることにしました。
虫がキライな方、どうか、それだけの理由で、殺生をしないでください。
腎臓に住んでいた群の子どもの原虫が、尿からカラダの外に排出されます。
野生のうさぎさんの習性で、尿をなめ飲むという行動があります。
自分の排出したものではなくて、他人の尿の場合もあります。
意味は、塩分の摂取かもしれません。
大久野島でも、うさぎさんの間では、コンクリートの上に落ちた尿をなめ飲む行動をしていました。
この尿で排出された原虫が、口から消化管に流れ、小腸から吸収されたときに、血液にのって、流れて全身をめぐります。
小脳あたりに到達して、そこに住み着いて脳の機能をじゃまするわけです。
感染しても、最初は仲間が少ないので、検査に反応できません。
たくさんの子ども原虫が体内に入ってきて、家族を増やして、爆発的に増えれば3週間くらい。
少しの数の子ども原虫が体内に入ってきて、増えたところで、1ヶ月くらいしたら、検査で反応がでます。
とはいえ、うさぎ側のカラダにも、免疫があります。
子ども原虫が増えないように、免疫で抑え込むのですが、ストレスだとか、他の病気にかかったとか、カラダの調子が悪いと抑え込むのが弱くなり、症状がでてくるというわけです。
通常、脳と血液との間には、国境のようなものがあります。
脳血液関門と呼ばれる、関所みたいなものです。
血液から、脳側にわたるときには、免疫が働いて、入り込ませないようにするのですが、どういうわけか通過してしまう外来物質があるようです。
そういうわけで、このエンセファリトゾーン・カニキュリも通過できたのでしょう。
住み着いて、カラダの免疫に抑えつけられながらも、住処を広げていきたいわけです。
エンセファリトゾーン・カニキュリの予防方法は?
ここで、駆虫剤を使って、カラダの原虫を失くしても、壊れた組織はなかなか、元に戻りません。
だけど、生き物のカラダは、不思議で、どこかが壊れても、別の組織が代わりをするので、症状でないこともあります。
原虫をカラダから失くした後は、どうでしょう。
尿と一緒に排出された、子ども原虫は、3ヶ月くらい生きています。
環境中の子ども原虫の方は、塩素消毒で30分くらいつけると効果があるともいわれていますが、よくわかっていません。
塩素の濃度だとか、温度だとか、詳しい条件がはっきりしていないのです。
なので、再感染しないためには、何度か、ケージを洗って、干してを、繰り返すと、また使えるようになると思います。
また、ケージを買い直すことも提案されるかもしれません。
どんな生き物でも、自分以外の生き物に感染すると抗体という、免疫物質ができます。
抗体は、次に、また同じ外来生物が自分のカラダに入ってきたときに、すぐに反応できるように、備えています。
抗体は、一つではなくて、いくつかの種類があります。
そして、動物病院でする、血液中の抗体検査の検査薬こそが、実験動物たちの命で作られています。
エンセファリトゾーン症の抗体検査
日本のエンセファリトゾーン・カニキュリの感染状況は、帯広畜産大学の先生が、2008年に論文を発表しています(2)。
論文では、IgM抗体とIgG抗体の結果が出ています。
少し補足すると、IgMが陰性(-)で、IgGが陽性(+)なら、過去の感染を意味します。
IgMが陽性(+)で、IgGが陽性(+)なら、過去にも感染したし、比較的最近にも感染したことを意味します。
まとめるとこういう感じです。
抗体の結果 | 状況 |
---|---|
IgM(-)+IgG(-) | 過去も今も感染していない |
IgM(-)+IgG(+) | 過去に感染したことがある |
IgM(+)+IgG(-) | 今(ごく最近)に感染した、再検査する必要がある |
IgM(+)+IgG(+) | 過去と今、感染している |
単独飼いをしている、健康なうさぎさんの感染率は、29.7%です。
だけど、複数飼いの場合、健康なうさぎさんの感染率は、75.2%です。
つまり、単独で暮らしていても、どこかで感染したことがある保菌者が、30%だということです。
それに比べて、複数で暮らしていると、感染率がぐっと、上がります。
複数飼いは、感染させあっている可能性が高いし、母子うさぎの関係で、感染させている可能性が高いわけです。
神経の障害の症状がでたうさぎさんでは、感染率は、81%です。
他の病気にかかっているうさぎさんでは、感染率は、43.2%です。
健康状態 | 感染率(IgG) |
---|---|
単独飼い/健康 | 29.7% |
複数飼い/健康 | 75.2% |
神経症状 | 81.0% |
他の疾病 | 43.2% |
エンセファリトゾーン症のつき合い方
神経症状がでているうさぎさんの、20%は、エンセファリトゾーン・カニキュリ原虫に感染していないことがわかります。
この20%が、内耳の病気です。
内耳に、原虫ではなくて、うさぎさんに風邪のような症状を起こさせる、細菌などが原因でしょう。
内耳に細菌が感染して、ふらつきやめまいの症状がでてきているわけです。
エンセファリトゾーン症の治療で、原虫の駆除剤と抗生剤の治療を同時に進めるのは、このためです。
原虫という生き物は、細菌をやっつける薬が効きません。
逆に、細菌に、ウィルスだとか、寄生虫をやっつける薬は効きません。
原虫の抗体検査は、すぐに結果がでないので、その間にも、治療を進めているのです。
早く治療すれば、カラダの組織が壊れるのが止まります。
いっぽうで、胎盤感染というのは、非常に少ないと言われていて、子うさぎの感染率は、少ないのです。
逆の言い方をすれば、離乳後に母子が離れて暮らした子うさぎさんは、感染率が低いことになってしまいます。
ペットショップなどは、こういう論文を逆手にとって、販売しているのかもしれません。
だけど、子ども時代は、感染よりも、ストレスの減少や精神安定が、重要な要因です。
だから、万が一、感染していたとしても、原虫の駆虫と、ストレスを減らした生活で、このエンセファリトゾーン症と向き合っていくことが大事です。
神経症状がでると、介助が必要になります。
体験記などを読むと、よくわかるのですが、介助するたびに、できることが増えることを喜んでいる方もいます。
症状が良くならなくても、安定していることが大事な人もいます。
悲劇だと思わずに、うさぎさんの生活の一部、個性だととらえて、暮らしている方もいます。
うさぎさんは、健康で長生きすることも大事ですが、山あり谷ありで、病気になったり、トラブルに巻き込まれることもあります。
だから、人生も、同じなんじゃないかと思っています。
健やかなるときも、病めるときも、一緒にいることで、学ぶことは、あります。
わたしは、愛うさぎを病気で亡くしてから、ずいぶんと再勉強する機会ができました。
きっと、今後の自分の人生にとって、プラスに働くのではないか、と思っています。
引用文献
(1) 田向健一、珍獣の医学、扶桑社、2016.
(2) Igarashi M., Oohashi E., Dautu G., Ueno A., Kariya T., Furuya K.:High seroprevalence of Encephalitozoon cuniculi in pet rabbits in Japan.J. Vet. Med. Sci., 70(12), 1301-1304, 2008.