うさぎさんの女の子と暮らしていると、ものすごく、悩む問題です。
悩むのは、ムリがありません。
2つの要因を天秤にかけても、答えが出にくいのは、ホンネです。
1.うさぎさんの子宮腺がん(子宮がん)の発生率のデータの高さと、肺転移の恐怖
2.全身麻酔のリスクと、病気ではないカラダを傷つけるのは正しいのか
ずっと、何がいいのか、考えていました。
避妊手術は、うさぎのためにするのではなく、飼い主さんのためにするものなんだって、思うのです。
そうしないと、答えが出ないのです。
以下に書いたデータから、わたしが読み解けたことは、リスクを減らすことで、うさぎとの未来の暮らしを、より楽にしていく、ということだけでした。
まず、子宮腺がんの発生率のデータについて、詳しく勉強してみました。
子宮腺がんは、最初からガンになるのではありません。
子宮腺がんの統計データとは・・・
ネット上で、よく見かけた数字、「雌うさぎの子宮がんは、80%」の出所は、1941と1959年にGreeneが、発表した論文です(1; 2)。
この論文では、5歳の雌24匹のうち、19匹が子宮疾患を患っている、と報告されています(2)。
24匹というのは、統計に使うには、かなり少ない数(母数)です。
19は、死亡したときに解剖しているようで、子宮がんと確定しています。
子宮がんは、19/24匹で、つまり、79.1%になります。
いま、記事を書いているのは、2016年ですから、75年も昔のことです。
そして、この時代のうさぎさんのごはんは、長寿よりは、太らせる目的のエサです。
獣医さんは、よくこの80%説を引用されます。
75年前の太らせるエサを与えられて育った、うさぎさんの子宮がんは、19/24匹で、80%です。
正直言って、10年ひと昔の時代に、ずいぶんと古いものを引用するなぁ、と思いました。
それだけ、うさぎさんの獣医学研究データが少ないということだと思います。
およそ60年も前の、太らせるペレットを食べたうさぎさんの子宮がんが、80%だったという、報告でしかありません。
獣医さんは、病院務めなので、出会う、うさぎさんのほとんどは、病気の子でしょう。
獣医さんのように、出会う、うさぎさんが、ほとんどの病気、という環境に身を置いていれば、必然的に、子宮がんの割合も多くなってしまいます。
もう少し、最近の報告があります。
Heatley and Smithの2004年の論文では、3歳以上の女の子は、80%が、子宮腺がんと報告され、これを引用して、50~80%が子宮腺がんである、と報告されています(3)。
だけど、このHeatley and Smith (2004)の報告は、経過などが、詳しく書いてありません。
あくまでも、動物病院の獣医師に向けて、うさぎの腫瘍についてまとめた、いわば総説です。
3歳以上で、何匹の女の子だったのか、どんな種類のうさぎさんなのかも、書いてありませんから、わかりません。
もしかすると、実験動物かもしれないし、クリニックに来院したうさぎさんなのかも、しれません。
とにかく、わからないだらけです。
このHeatley and Smith(2004)の論文には、たった1事例のうさぎさんの症状や、経過なども、書いてあります。
「うさぎさんのがん」というテーマで勉強するのには、参考になる論文だと、思います。
子宮の細胞が多くなる「過形成」という状態も、子宮疾患の一つです。
子宮がんの状態では、ありませんが、やがて、子宮がんに発展するだろう、とのことで、子宮がん扱いされる場合があります。
がんは、最初は、ポリープみたいなものから、始まります。
ポリープが、のう胞になって、そして腫瘍と呼ばれる状態になって、やがて、腺がんになるという経過です。
このがんのでき方は、人間も同じです。
そうすると、ポリープ状のものでも、子宮がんと呼んでしまうので、うさぎさんの子宮がんの症例数は、多くなります。
一方、うさぎ専門店や、うさぎブリーダーいわゆるラビトリーでは、繁殖させて、子うさぎと暮らしています。
若くて健康なうさぎたちを相手にしているので、必然的に、病気をみることは少ないと思います。
では、うさぎさんと暮らしている、わたしたちは、どうでしょう。
より少ない経験と母数ですから、信用できる答えは、導き出すことはできません。
そこで、子宮腺がんが、恐れられているもう一つの要因、肺転移について、詳しく考えてみることにします。
子宮腺がんからの肺転移について
たくさんのネットの声を見ていると、子宮腺がんを恐れているのは、「肺転移」のようです。
肺に、がんが転移した場合、うさぎさんが苦しい思いをするだけだ・・・とあります。
肺は、多くの内臓の中で、転移しやすい場所であると同時に、強く症状が現れる場所です。
だからこそ、悲劇的に感じます。
血液にのって、がん細胞がカラダの中をめぐるわけですから、血液でできている肝臓にも、転移します。
肝臓に転移しただけでは、症状が、出にくいのです。
うさぎさんの場合は、肝臓に転移した症状としては、まず食欲不振になると思います。
肝臓は、胃の近くにあるので、肝臓がんの塊が、本来の胃の位置を変えたり、圧迫してくるはずです。
食欲不振は、うさぎのさん場合、致命的になることもあるのですが、ヒトをはじめ多くの生き物は、あまり深く考えません。
ところが、肺がんの方は、苦しそうな姿勢をとるので、より動揺することになります。
しかし、子宮腺がんというのは、すぐに転移は起こりません。
がんを悲劇にとらえる傾向の人は、「進行がん」をイメージしています。
「進行がん」は、ものすごいスピードで、がんが進行していきます。
しかし、子宮腺がんは、そういうタイプのガンでは、ないのです。
子宮という臓器は、仮にガンであった場合、ゆっくりとガンが進行する臓器です。
また、がんは、若ければ若いほど、進行は早くなります。
がん細胞は、自分自身の細胞から生まれます。
若いときは、新陳代謝が良い、といいますが、細胞がどんどん生まれるのです。
だんだんと年齢を重ねていくと、細胞が生まれるのが遅くなり、シワやたるみだとか、いわゆる老化していくのです。
年齢を重ねたと表現するには、生き物の場合は、繁殖期で考えるとわかりやすいです。
繁殖期をすぎれば、細胞の活性も落ちてくるので、がん細胞が増えるスピードは、ゆっくりです。
もともとゆっくりと変化する子宮に、加齢が加わり、うさぎさんの子宮腺がんは、半年~2年程で、悪性化し、転移を起こしやすくなります。
1~2年と長いスパンで転移するという、転移性がんのスピードは、1997年にPaul-Murphyが発表した論文に書かれています(4)。
転移の率について、論文をもう少し読む必要があるのですが、2008年に佐藤らが発表した論文によると、子宮腫瘍の111匹中の1例となっています(5)。
筆者は、さらに追跡する必要があると考えていて、しかもその1例の転移は、肺、肝臓、骨のどこに転移したのかは記されていません。
佐藤ら(2009)論文では、子宮腺がんを含む、子宮のトラブルがあった307匹と、避妊目的で来院した4匹を合わせて、311匹中について、調査しています(5)。
226匹は、血尿の症状で、また、乳腺の張りなどの異常が30例です。
血尿が73%、乳腺の異常が10%、腹部の腫れが7%で、症状は90%です。
またネットでささやかれる子宮腺がんは、無症状でも起こるということについては、おそらくこの論文を引用しているのではないか、と思いますが、避妊手術を目的に来院した4匹(1.3%)が、無症状として、統計に掲載されています(5)。
つまり、子宮腺がんだけでなく、がんまでいかない何らかの子宮のトラブルには、シグナルがある、と考えてよさそうです。
臨床の報告例でも、年齢は4歳から7歳で、血尿があって、外科的に摘出して、子宮腺がんであったと報告されています(6)。
7歳で摘出し、その後回復しているところを考えると、高齢期であっても、手術する選択を選ぶことができそうです。
しかし、このシグナルを見つけることは、大変です。
仮に、避妊手術を先延ばしにしたのなら、毎日のボディチェックと、3~4歳からは、血尿の確認が必要になるということです。
また、血尿は、どのくらいの量が出血しているのか、気になるところです。
血尿は、いきなり、出るそうです。
子宮には、血管があるので、そこが、破けてしまうからです。
こんな風に、子宮の血管が破けたのだとすると、かなりの量の出血があるはずです。
ネット上で、血尿の具合の写真を掲載されている方がいました。
ネットの写真のように、大量の出血が続けば、失血死する場合があると思うのです。
それほどの、血液の量でした。
汚い話ですが、人間の下血でも、出血死した事例を知っています。
痔の出血で、大量出血し、血液が足りなくなって、心臓が空回りしたのです。
同じように、うさぎさんの血尿でも、出血死はおこりうるのではないか、と思うのです。
ましてや、うさぎさんのカラダは、小さいです。血液の量は、55~78 ml/kgです。
だいたい体重の20%の失血までが、ギリギリ許容される限界になります。
体内から、アドレナリンというホルモンがで出始める出血の量が、20%です。
20~30%失われると、いわゆるショック状態になります。
輸血ができればいいのですが、どこかが破れている状態では、そう長くもたせることは、不可能です。
失血死の問題については、あまり、触れる人がいません。なぜでしょうか・・・。
血尿が、例えば1日とかになるのでしょうか、すみませんが、不勉強です。
もっと、勉強してみます。
ネットでは、「うさぎさんのために」と、避妊手術を強くすすめる声があります。
その声は、非常に強い言い方をするので、気になっていました。
冷静になった今、そこに、一つの答えを見つけることが、できました。
おそらく、その方は、うさぎさんを亡くされ、子宮疾患からの肺転移の可能性を指摘されて、ご自分を責めていらっしゃるのでは、ないでしょうか。
うさぎさんに限らず、動物の診療では、「診断がつかなければ、セオリー通りの診断をすべし」と、獣医の臨床学の教科書に書いてあります。
いろいろ調べても、ヒトを含め、生き物のことは、わからないことは、多いのです。
獣医に限らず、人間の医療でもそうです。
特に、うさぎさんの場合、女の子の子宮がんが多いと、GreeneやHeatley and Smithらが、発表しているのであれば(1; 3)、検査してもわからないことがあっても、子宮がんの可能性があったと、診断することになるのが、セオリーです。
レントゲンでは、内臓の状態までは、わかりません。
CTを使うと、最初の病巣(原発性という)なら、大きな塊に、転移性なら、不成型な丸型の塊が、いくつか見えてきます。
ウサギの内科と外科マニュアルという翻訳本にも、子宮腺がんからの、肺転移が多いと書かれていましたが(6)、割合的なものなど、詳しくは、書かれてなくて、わかりませんでした。
うさぎさんは、肺が原発性の病巣となることは、報告例が少なくて、「まれ」な病気とされているので、まず、転移であることを疑われます。
仮に、男の子で、原発性肺がんの報告がたくさん出てくれば、セオリーが変わってくるのかもしれません。
ただ最近では、子宮がんだけでなく、精巣がん予防に、去勢手術をすすめる獣医さんがいます。
残念ですが、今のところ、呼吸器系の症状がでていれば、肺転移が起こり、最初の病巣(原発性という)は、子宮で、肺に転移が起こったのだろう、と診断することが、セオリー通りの診断に、なるはずです。
ほんとうに、そのセオリー通りの診断が、正しいのかは、わかりません。
正しくない、と思いたいこともあるし、思いたいだけで、正しいのかもしれません。
どうしても、答えがほしければ、死亡時に解剖するしか、ありません。
だけれど、がんばって生きてきたうさぎさんを、すすんで解剖する人は、おそらく少ないでしょう。
セオリー通りの診断こそが、子宮がんからの肺転移が多い真相なのでは、ないか・・・と、わたしは、勘ぐってしまいます。
もう一つの事実について・・・。
先ほどの Greene(1941)の論文では、5歳まで、子宮のトラブルなしで、生存できれば、子宮腺がんは1/3程で、反比例しています(1)。
つまり、5歳から、新たに子宮腺がんなど、トラブルを抱えることは、確実に少なくなると、いうことを、意味しています。
高齢期になってから、子宮腺がんによる肺転移を疑われて、ご自分を責めていらっしゃる方がいましたら、どうか、この情報を素直に、信じていただけたら、幸いです。
かなり古い、Greene(1941)の論文から、子宮腺がんが多いことを、支持しているのに、同じ論文の、高齢うさぎの子宮腺がんが、減少していることだけを、信用しないというのは、不自然な気が、しています。
この記事では、うさぎさんの子宮腺がん(子宮がん)の発生率のデータ、それと、肺転移の恐怖について、まとめておきました。
次の記事は、全身麻酔のリスクと病気ではないカラダを傷つけるのは正しいのか、それと最近のトピックスを紹介します。
つぎの記事:避妊手術の悩み_2、全身麻酔のリスクと病気ではないカラダを傷つけるのは正しいのか←クリックすると記事に行きます。
避妊手術のリスクを書いてみます。
・麻酔の心配
・麻酔の毒性
・手術の予後の心配
・宗教的、哲学的な問題
・仮に失敗した時のストレス
・太りやすくなる
・膀胱をささえる臓器がないので、結石が心配
・毛の抜け代わりが、ずっと起こる(ダラダラ換毛期)
避妊手術した場合のベネフィットは、こんなところでしょうか。
・子宮トラブルに巻き込まれない
・経済的な得(手術費用)
・血尿などの確認作業が減る
・ホルモンの影響が減り、おだやかになる
・多頭飼いができる
・外出時に望まない妊娠が減る
・仮に子うさぎができた時の里親探しがいらない
・仮に間に合わなかったときの後悔とストレス
・クランベリーなど予防方法が必要ない
次のページでは、避妊手術しなかった場合に、どうなのか、シミュレーションしてみます。
避妊手術は、飼い主さんが決めていいことです。
そのときに、変に、うさぎさんのために・・・と考えるから、ややこしくなってしまいます。
だからこそ、自分のために・・・で、選択していい、と思います。
答えがでなければ、そのままにして、前に進んでもいいと思います。
もし、避妊手術という名前ではなく、子宮がん予防手術という名前だったら、受けたいですか?
子宮がん予防手術と聞いて、受けさせる方に、傾くのなら、できるだけ賀、早期に、手術を決意する方が、いいと思います。
年齢的には、6ヶ月位です。
2歳のかけ込み手術も、あるといいます。
もちろん、2歳すぎてからでも、手術は、充分できます。
2歳くらいになると、おなかに脂肪がついているので、慎重になるそうです。
病院は、ストレスがかかります。それまでに、うさぎさんの自信をつけ、大丈夫と、思えることを増やし、好きな食べ物を、探しておきましょう。
もうひとつ、症状が出てから、手術するという選択肢があります。
だけど、症状を見逃さないように、しなきゃいけなくなります。
そのあたりも含めて、次のページが、参考になれば、と思っています。
つぎの記事:避妊手術の悩み_2、全身麻酔のリスクと病気ではないカラダを傷つけるのは正しいのか←クリックすると記事に行きます。
引用文献:
1) Greene H.S.N.: Uterine adenomata in the rabbit.J. Exp. Med., 73(2), 273–292, 1941.
2) Greene H.S.N.: Adenocarcinoma of the uterine fundus in the rabbit. Ann. N.Y. Acad. Sci., 75, 535-542, 1959.
3) Heatley J. and Smith A.: 2004 Spontaneous neoplasms of lagomorphs. Vet. Clin. Exot. Anim. 7, 561–577. cited in ウサギの内科と外科マニュアル(第ニ版)、斉藤久美子訳、2009年.
4) Paul-Murphy J.: Reproductive and urogenital disorders. In: Hillyer E.V., Quesenberry K.E., eds, Ferrets, rabbits, and rodents, Clinical medicine and surgery, WB Saunders, Philadelphia, 202-211, 1997.
5)佐藤英実, 内海美和, 高久ゆうき, 鶴岡学, 中西真紀子, 斉藤久美子:ウサギの子宮疾患311例に関する疫学的検討、動物臨床医学, 18(2), 25-29, 2009.
6) 木内 充, 宮崎あゆみ, 細川志乃 (2010): 血尿を主訴としたウサギの子宮腺癌の3例, 岩獣会報, 36 (2), 62-64.
7) ウサギの内科と外科マニュアル(第ニ版)、斉藤久美子訳、2009年.